by Yuichiro Hosono 細野雄一郎
桂朋子 & ギヨーム・グロバール インタビュー
「こんにちわ。おひさしぶりです。おげんきでしたか?」
一年ぶりに会うフランス人チェリスト、ギヨーム・グロバールさんの日本語がとても上達していることに驚きました。
フランスを拠点に活動するバイオリン&チェロのデュオ『LA PAUSE MUSICALE(弦と遊ぶなかやすみ)』のコンサートが2025年5月18日(日)、5月24日(土)に開催されます。
今年で第7回の日本公演を迎える桂朋子さんとギヨーム・グロバールさんご夫妻に、あらためてお話しを伺いました。
ギヨーム(チェリスト ギヨーム・グロバール。以下、”ギヨーム”と表記):「オランダで朋子と知り合った時は、彼女とコミュニケーションを取るために一生懸命英語を勉強しました。そして今回は、来日前、5ヶ月間集中的に日本語を勉強してきたのです」。
今回の日本公演では、ギヨームさんの流暢な日本語によるMCを聴くことが出来るのでは?と密かに期待を寄せています。
【長年使用してきた道具の変遷】
ギヨーム:「今回もね、自分が使っているチェロをフランスから持ち運んだんだ。人間が飛行機に乗るよりは少し安いけれど、それでも出費が痛い・・・(苦笑)」
朋子(バイオリニスト 桂 朋子。以下、”朋子”と表記):「ギヨームは今まで10年〜15年長らく使ってきたガット弦(羊の腸を素材とした弦)からスチールに変えて、今回演奏をします」。
※正確には2本をスチールに変え、残り2本はガットのまま。
——ガットとスチールで素材が違うことは分かりますが、演奏家にとってはどのような違いが生じるのですか?
ギヨーム:「ガットの音は、その時々で左手と右手の微妙な調整が必要で、ある意味その不安定さをコントロールすることがとても面白いのですが、今回のプログラムを考慮し、音程を重視することにフォーカスしてスチール弦を採用することにしました。スチール弦は一度調弦を施すと音程が比較的長い時間ピタッと安定します」。
【今回公演のプログラムについて】
——今回演奏する4人の作曲家たち、アルテュール・オネゲル(フランス・スイス両国籍 1882.3.10-1955.11.27)、ジョージ・クラム(アメリカ 1929.10.24-2022.2.6)、エリザベト・ジャケ・ド・ラ・ゲール(フランス 1665.3.17-1729.6.27)、ジェシー・モンゴメリ(アメリカ 1981.12.8-)は、時代や作風にもかなり幅がある印象です。
これらの楽曲を選んだ理由は何ですか?
朋子:「まず大前提となるのは、現時点で私たち自身がシンプルに彼らの音楽が好きだからです。そして、彼らの生きた時代や音楽観、作曲の仕方など一致するものがないように思えるのですが、楽譜を読み込んで練習を重ねていくうちにLINKする箇所を幾つも感じられるようになりました。そうやって私たちなりに彼らの音楽を”解釈”した点をコンサート中のMCも交えて紹介していきたいと思います」。
ギヨーム:「よく『君たちは自分の音楽(=2人が作曲した楽曲)は弾かないの?』と聞かれることがあります。その問いに対する答えは、『イエス』なんだけれど・・・、ただ僕らには過去作曲された『カバー』をやっているという感覚は全くなくて、誰かが書いた曲だけれど、それを掘り下げていくうちに僕ら自身の解釈でその音楽を作り上げていく。そういう試みの繰り返しのような気がするんだ。更に理想を言えば、そうやって僕らが”創り上げた”音楽を聴いてくださる方々に、聴く人たちなりの解釈も重ねて音を楽しんでもらえたら、と思っています」。
【Fameであることは重要ではない。なぜならば音楽を追求することそのものが面白いから】
——今回取り上げる4人の作曲家はいわゆるポピュラー音楽からは遠く、どちらかと言えば玄人好みの位置付けにあると思います。
ギヨーム:「Fame(有名であること)かどうかは実は僕らにとってあまり重要なことではありません。おそらくJ・S・バッハも有名になるためにたくさんの曲を書いた訳ではないと思います」。
朋子:「今回取り上げるジャケ・ド・ラ・ゲールは、ルイ14世に愛されたチェンバロ奏者で、彼のためだけに書いた音楽を献上していた作曲家でもあります。当時のフランスバロック音楽界では言わばFameな存在だったと想像しています。ただ、彼女の没後300年近くが経ち、ポピュラーの中身が時と共にだいぶ変化していった結果、今はあまり知られていない存在になってるだけのことだと思います」。
ギヨーム:「昔、オーケストラに居た時、ブリテン(ベンジャミン・ブリテン イギリスの作曲家 1913.11.22-1976.12.4)のチェロ組曲に取り組んだことがありました。6ヶ月間、一生懸命練習しても一体彼が何を伝えたかったのか、さっぱり理解出来ず・・・ところがある時『あ!こういうことだったのか!』と閃きに近い感覚を覚えたのです。何をやったから、どういうプロセスを踏んだからその気づきに至ったか、というのははっきり分からなかったのだけど、まるでパズルのピースがはまったようにね。多分、ニュートンが、木から林檎の落ちる様を見て地球には引力がある、と察したのもこんな状況だったんじゃないか?と」。
——その閃きに近い感覚をどうしたら得られるのか?理論的に解釈しようとするととても難しい気がしていますが、そういう境地に辿り着くまでに心がけていることなどありますか?
朋子:「技術的には譜面の指示通りに身体が動く状態にしておくことが前提で、テクニックをなるべく忘れて、音楽のその瞬間瞬間を掴み切ることに集中する、というか。上手く説明できずにすみません。自分のできること。頭と心はコントロール出来るように努め、後は何か事が起きた時に身体が反応出来るか?いかに空っぽの状態で居られるか?この点については精神面が強く作用するように思えます。もちろんテクニック的に右手左手がささっと動作出来るよう日頃のトレーニングが大切なことは言うまでもなく。同時にその前にパニックに陥ることの無いよう、なるべく音楽から集中力が抜けることの無いようにという心の強さが大事なのです。私たちは常にそういう部分に注力しながら音楽に接していると思います」。
ギヨーム:「夢路(ゆめじ ギヨームさんと朋子さんの一人息子)のバレーボールの先生がね、こう言ったんだ。『ボールは自分の構えているところに飛んできてくれない。ボールが飛んでくるところに自分の身体を動かして』この先生からの言葉に音楽にも通じる真理があると感じたよ」。
【ダンスミュージックの不思議から音楽の魅力を再認識】
——去年の日本でのコンサートを終えて今日までの一年間、何か面白い出来事はありましたか?
朋子:「住んでいる地域の組合が小さなバーを購入して、そこに毎週金曜日、色んな人たちが集まるようになりました。私たち音楽家だけではなく、地域で働く配管工や陶芸家など。約60人ほどが入れる場所で、本当に面白い人たちがいつも集まってきます。そこでのコンサートは、年間で6人の画家たちがオープニングのパフォーマンスを披露する際、音楽をつけるという催しでした。その時の1人目の画家と私たちラ・ポーズがコラボすることになりました」。
ギヨーム:「そこで曲名や作曲家を告げることなく、バルトークのルーマニア民俗舞曲を2人で演奏したんだ。その施設は、1階がバーで2階が演奏スペースになっているんだけど、最初は様子を伺うように聴いていたオーディエンスたちが演奏を聴くうちにノリノリになってきて、飛んだり跳ねたり!!1階に居たバーテンが『床が抜けるんじゃないか?!』と焦っていたようでとても痛快だった。大半の人が、この音楽を作曲したのはバルトークで『ルーマニア民俗舞踊』という曲名だとは知らなかったはずなんだけど、やっぱりこれはダンスミュージック(=舞曲)なんだな、って。曲に関する事前情報が無くても、人々を熱くさせ、身体を動かしてしまう不思議な力があるんだ、と身を持って体験したよ」。
朋子:「そのコンサートが終わった後、あるお客様からこんなお話しを伺いました。『もう10年ぐらい前からあなたたちがこの周辺で演奏しているのは知っていました。でもバイオリンとチェロの”クラシック”だから僕たち向けの音楽じゃないと思っていたんです。でも今日初めて君たちの音を聴いて、ジャンルがどうこうじゃなく、とても楽しくてエキサイトしました。これからあなたたちの音楽を聴くのがとても楽しみになりました』。そんな言葉を貰ってとても嬉しい瞬間でした。その後、彼らはこのバーとは別に開催されるラ・ポーズのコンサートにも来てくれるようになったんです。クラシック音楽はお行儀良くて退屈というラベルをラ・ポーズが剥がしていきたいものです」。
——お二人のデュオ演奏としてのラ・ポーズ・ミュージカルコンサート(5/18、5/24)の後にも今年はステージが用意されているようですね?
朋子:「はい。6/15(日)には長野県の御代田の『長野エコールみよた あつもりホール』で。その次は6/21(土)千葉市中央区の『千葉アートサロン 2階』で行います。私とギヨームのバイオリン・チェロ以外に、ピアノ(ソーニャ・久美子・リー)が加わりトリオ編成になります。ピアノが入ると格段に音の幅が広がって、今からとても楽しみなんです」。
※千葉アートサロンは全80席で要予約制。長野は予約不要です。
https://tomokokatsura.com/2025/03/21/弦とピアノのなかやすみ/
——最後に第7回となるラ・ポーズ・ミュージカル日本公演(千葉・東京目黒)に向けて一言お願いします。
ギヨーム:「今年のプログラムは本邦初の編曲なしです。あまり知られていない作曲家が集うパーティだけど、そこに集まる4人の作曲家たちは皆良き人々です。皆様が楽しみにワクワクしながら来てくれると嬉しいです」。
朋子:「副題の”弦と遊ぶなかやすみ”とあるように、弦の音に触れて遊んで、皆様が心を休めるひと時になれば幸いです」。
“作曲家とは、過去から紡がれた全ての音楽が持つ魂と、自らの人生の体験、そして想像力とを融合させる体現者である”
今回のコンサートで演奏される作曲家の一人であるジョージ・クラムが遺した言葉を朋子さんが意訳した一節です。
クラムはここで主語を”作曲家”としていますが、過去から紡がれてきた音楽が持つ魂に自らの人生体験や想像力を融合させていく者こそが真の音楽家であると筆者は捉えます。
今年はどんな音の楽しみを私たちに届けてくれるのか?
【第7回 LA PAUSE MUSICALE(弦と遊ぶなかやすみ) 日本公演 コンサート概要】
アーティスト:
桂朋子(バイオリン)
ギヨーム・グロバール(チェロ)
プログラム:
A. オネゲル バイオリンとチェロのソナチネ
G. クラム 無伴奏チェロソナタ
E. ジャケ・ド・ラ・ゲール バイオリンとチェンバロのためのソナタ第1番
J. モンゴメリー バイオリンのためのラプソディー第1番
開催日時・場所:
2025年5月18日(日) 千葉市生涯学習センター 2Fホール
開場:14時/開演:14時30分
2025年5月24日(土) めぐろパーシモンホール 小ホール
開場:18時45分/開演:19時15分
料金:
一般 3,500円/学生 1,000円 (両会場共通)
*チケットはこちらのリンクからお求めいただけます。
-完-
インタビュアー・文・写真
細野 雄一郎(ほその ゆういちろう)
@u1rohosono
デザイン・構成
姜 順花(カン スナ)
@soona_kng
La Pause Musicale
Instagram @lpmusicale
Facebook https://www.facebook.com/lapausejp/