by Yuichiro Hosono, April. 2023
桂朋子&ギヨーム・グロバール インタビュー
「La musique est un merveilleux professeur pour moi.
(音楽というのは、僕にとっ て素晴らしい先生なのです)」
フランス人チェリストが発した一言にハッとさせられました。
「どんなに一生懸命練習してもいつ間違えるか?あるいはいつ凄い音が出せるか?思うようには プランニング出来ません。これはまさに人生と同じ」(ギヨーム・グロバール)
今回で第5回目を迎えるLA PAUSE MUSICALE(弦と遊ぶなかやすみ)の日本公演。 東京都、千葉市の2箇所でコンサートが開催されます。それに先立ち、バイオリニストの桂朋子さんとチェリストのギヨーム・グロバールさんにお話を伺いました。

二人の出会い。そしてオランダでのオーケストラ修行時代
桂朋子さんはジュリアード音楽院(*1)修士課程取得後、ヨーロッパへ渡りオランダ 室内管弦楽団(*2)に入団します。 入団間もない3ヶ月後、同楽団のチェロ奏者オーディションに立ち合います。 いかにも多くの場数を踏んだ凄腕たちの中に一人、異色のチェリストがいました。
「長髪に身なりもどこかラフな感じ。おまけに年齢もかなり若そう…他の奏者たち と比べるとこの人は変わってるなぁという印象でした。でもね、チェロを弾き始め たら凄かったんです!自由自在に4本の弦と弓を操る。彼から”音楽”そのものが聞 こえてきました」(桂朋子)
若くしてオーケストラの枠に収まらないギヨームの才を見抜いたオランダ室内管弦 楽団は、正式に彼の入団を認めます。 その後10年間、オランダで研鑽を積んだ2人に音楽家としてのターニングポイント が訪れます。

現在のLA PAUSE MUSICALEの原点を見出したきっかけ
アムステルダムにあるがん専門医療施設から出演オファーが入り、当時彼らのカルテットで演奏し ていたシューベルト(*3)作曲弦楽四重奏第14番「死と乙女」を選曲することになりました。
「正直メンバー皆がとても悩みました。終末期を迎える方も多くいる施設でこの曲を弾くことは どうなんだろうか?と。ただ楽曲そのものはとても素晴らしいので、曲名は告げずにシューベル トをカルテット演奏する、ということでステージに臨みました」(朋子)
「この時、私たちは音楽の持つ”力”を肌で感じたのです」(ギヨーム)
生と死に日々向き合う患者さんたちを前に演奏し、とてつもない空間のエネルギーを感じ、互い (演奏家と聴き手)に引き合うものがあった、と当時の印象を朋子さんは述懐しています。
「大きな演奏会場、何百人も収容する大ホールで演奏するのとは全く違う特別な感情が湧きまし た。こういう音楽の在り方があるんだな、って。ある意味、音に嘘がつけないというか…これが 本当の音楽だ!その時はっきりと感じました。あの場所で感じた音楽の”力”とは、あらゆる壁を 取り払うこと。患者、医師、看護師、お見舞いに来ている人たち、そして私たち演奏家。皆がそ れぞれ違う立場に居ても皆一つの音楽の中に居る。そこに垣根なく皆が共存しているのが何とも 言えない幸せな時間でした」(朋子)
世界中の都会には素晴らしいオーケストラが既にたくさんある。そこは彼らに任せて、私たちは 音楽のないところに音楽を届けに行きたい。これこそが私たちに与えられた音楽家としての使命 だ。 そう強く感じた2人はオランダ室内管弦楽団を退団し、ギヨームの母国であるフランスへ渡りま す。それも首都パリから程遠い郊外の田舎へ活動拠点を移しました。

音楽そのものを愉しむこと。そして”La Pause(なかやすみ)”のコンセプト
「音楽には3つの大事な要素があると思います。それはComposer(作り手)、Interpreter(演じ 手)、Audience(聴き手)の3者です」(ギヨーム)
彼らのステージで特徴的なのは、なるべく舞台を取り払いオーディエンスと同じ立ち位置で演奏 する点です。 そしてジャズが入ったりブルースでアレンジしたりといわゆる典型的なクラシックスタイルからは 離れ、フランス国内でのステージでは、最後に皆がシャンソンを歌って終わるといったユニーク な形態を取っています。 今回の日本公演でも「めぐろパーシモンホール」では、舞台を撤去した形でのパフォーマンスが 見られそうです。
「マイルス・デイビス(*4)が言うように音楽にジャンルがあるとすれば、2つだけ。Good one or Bad one.(良い音楽か、あるいは悪い音楽か)」(ギヨーム)
「シンプルに”音楽を聴く”ということが、例えば気分転換にカフェに行くとか散歩をするような 感覚で、私たちのコンサートに来ていただけたら嬉しいです。”La Pause(なかやすみ)”のコン セプトは、一息入れるとか休憩するような感じで、音楽を通じた癒しの空間をお届け出来たらこ れ以上のことはありません。聴き手であるお客様も一つのコンサートを構成する大切な存在で す」(朋子)
彼らLA PAUSE MUSICALEの奏でる音楽は、日本では年に数回とそれほど多く聴けるわけではあ りません。 ただ今後も日本公演は継続していき、次回からは病院や介護施設での演奏、ホールより小さめな 場所でのライブなど着々と計画していることを伺えました。
La musique est un merveilleux professeur pour moi.
(音楽というのは、私にとって素晴らしい先生)
どんなに真面目に練習に取り組んでも、いつミスを犯してしまうか?あるいは神が降り立ったが 如く珠玉の旋律を奏でることができるのか?それらを全て思い通りにコントロールすることは出 来ません。 だからこそ音楽は面白い。まるで人生そのもの… 弦と遊ぶなかやすみ そこにはどんな時間が待っているのか?
【コンサート概要】
La Pause Musicale vol.5
①2023年5月12日(金)
めぐろパーシモンホール 小ホール
開場:18時45分/開演:19時15分
②2023年5月14日(日)
千葉市生涯学習センター 2Fホール
開場:14時/開演:14時30分
チケット料金:一般 3,500円/学生 1,000円 (全会場共通)
チケットはこちらのリンクからお求めいただけます。
お問い合わせ:ラ・ポーズ事務局
lpmusicale@gmail.com
043 253 9245
-完-

インタビュアー・文・写真
細野 雄一郎(ほその ゆういちろう)
@u1rohosono
構成
姜 順花(かん すな)
@studiosoona
2023年4月22日
【注釈】
*1:ジュリアード音楽院(1905年創立) アメリカ合衆国ニューヨーク市に本部を置く音楽大学。カ リキュラムが優れており、世界で最も優秀な音楽大学の中の1つとされている。
*2:オランダ室内管弦楽団(1955年活動開始) オランダのアムステルダムを本拠地とする室内オー ケストラ。
*3:フランツ・シューベルト(1797年1月31日-1828年11月19日) オーストリアのウィーンで生ま れる。31歳の若さで亡くなるまでに歌曲を中心とした数多くの名曲を残した19世紀ロマン派を代 表する作曲家。
*4:マイルス・テイビス(1926年5月26日-1991年9月28日) アメリカ合衆国のジャズトランペット 奏者、作曲家。「帝王」の異名を持つジャズ界の巨人の1人。多くの優れた名盤を残し、時代に応 じて様々な音楽性を見せ、ジャズ界を牽引した。